地形情報を利用する際に,記載情報に十分留意する必要がある,という事例
事例その1 : (国研)防災科学技術研究所発行の「地すべり地形分布図」が未完成であるケース

出典:(国研)防災科学技術研究所・自身ハザードステーション > 地すべり地形分布図データベース
  • 標記「地すべり地形分布図」を閲覧していたら,「長岡市及び周辺部の地すべり地形分布図に,未完成な場所がある。」ことに気が付きました。
    不整合の場所は,概略東経約139.00゜,北緯約37.3゜~約37.6゜の範囲です(1:5万地形図の東西接合部の東側が未完成)。
  • 防災科研に問い合わせたところ,『2013年度末までに整備されている情報が全てであること。』と『今後,追加する予定はないこと。』との,回答を得ました。

【今後のために】

  • 「地すべり地形分布図」は,国土地理院発行の「1:5万 地形図」に,地すべり地形を重ね書きした地図が基になっています。 従って,地すべり地形の図化は「1:5万 地形図」ごとに行われたので,隣接する東西南北で繋がらない場所が存在する可能性があります。
  • 1970年代に撮影された空中写真を実体視することで,地すべり地形の判読が行われました。 従って,現在とは相当程度地形が変化している可能性があります。 利用にあたっては,上記共々十分に留意してください。
事例その2 : 地図に示されたトンネルの位置が違っていたというケース(その1)

  • 2019年8月2日。 国土地理院は,「関門海峡鉄道トンネルの位置が実際より南に約50mずれて記載されていた。」と発表しました。
  • 確認のために,2008年発行の「都市圏活断層図・小倉第2版」及び1991年-2000年頃の「1:25,000 地形図」を閲覧した所,確かに,これらの版がずれていることがわかりました(上2図,及び下記出典)。
     出典① 千田 昇・渡辺満久・岡田篤正(2008),1:25,000 都市圏活断層図「小倉第2版」,国土地理院
     出典② 埼玉大学教育学部 谷 謙二先生(人文地理学研究室) > 時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」

【今後のために】

  • 「都市圏活断層図」と「今昔マップ」では,旧版がそのまま使用されています(その他にも,現存しているかもしれません)。
  • これらを利用する際には,最新版の「地理院タイル」との比較を行って,正確性を担保してください。
事例その3 : 地図に示されたトンネルの位置が違っていたというケース(その2)

(左)事故のイメージ。 (右)「地図上の長崎トンネル」は,事故当時の「地理院タイル」に記載されている位置で, 「推定長崎トンネル」は,事務局が推定した位置です。
  • 「トンネル工事の影響で地表水などが涸れた。」と言う理由により,上図(右)の位置で,渇水対策用の井戸が掘削されていました。
  • ところが,2019年7月11日に, 掘削用のビットが「長崎トンネル」の天井を貫通し,折から通過中の長崎発博多行きの特急かもめ16号に接触する,という事故が発生しました。
  • この掘削位置は,地図上の長崎トンネルから実に「70m~80m」離れていたのです。
  • ボーリング担当者の言では,「国土地理院の地形図を参照したので,この位置にトンネルがあることは想定外だった。」ということです。
  • 地形図を作成した「国土地理院」によると,「JR九州の社内情報そのものが間違っていて,国土地理院はその社内情報を基にして図化しただけです。」とのことでした。 国土地理院の公式発表情報 
  • 最新の「地理院タイル」を確認すると,上図(右)に示した「推定長崎トンネル」の位置と,ほぼ同じになっていました。

【今後のために】

  • 地形図自体にも間違った位置情報がありうることに留意し,地下掘削を行う場合には念には念を入れるべきでしょう。
  • 一般の人は,トンネルの位置がずれていることなど調べる術が無いので,鉄道会社も正確な位置情報を発信する方法を講じるべきです。
    特に,事例2と事例3は,共にJR九州が管轄するトンネルです。 他に無ければよいのですが。

本図はイメージです。 地形情報は,国土地理院の「標高API」を使用しました。